友達申請

中学を卒業して以来まったく会ったことも話したこともない同級生から、フェイスブックに友達申請がきた。岸野さん(仮名)という人で、ナナフシのような女である。さらに言えば、当時友達だった記憶はまったくない。身長170cmくらいで、体重はおそらく50kgを切っていただろう。ガリガリである。寡黙で、友達もあまりいなくて、たまに口を開けば肘を体に押し当てながら右手を頬に添えて、小首をかしげながら話すような人だった。顔立ちはきれいな方だったと思うのだが、ふだんの表情の固さとか、たまに笑えば笑い方が分からないような笑い方をするもんだから、人気があったとは言い難いだろう。少なくとも、岸野さん(仮名)が良いとか好きだとか、そういうことを公言する人間はいなかったと記憶している。


しかし、それでも、彼女には付き合っている男がいた。彼氏はクリボーのような男である。身長160cmなかったのではないか。彼はまた、出っ歯でもあった。あまりスムーズに話すことができない、ドモリがちな男であった。この男、私よりチンチクリンなのだから、推して知るべしである。風の噂によれば、高校3年だか大学入ってからだかで破局したそうだが、それまでの数年間、ナナフシのような女とクリボーのような男のロマンスが存在していた。たぶん、あの二人だから、それなりに清い交際であったということだろう。ちなみに、クリボーはその後、(こういうタイプの男にありがちな「出来上がりかた」なのだが)新車のランエボを乗り回して結構痛いイチビリと化していたようだ。実際私も運転しているところを目撃したことがあるのだが、運転席に座る彼と必要以上にアクセルをふかしながら走り去るランエボを見てその滑稽さのあまり思わず爆笑してしまった。岸野さん(仮名)はそういうところが嫌になったのかもしれない。


ところで、あらためて友達申請者である岸野さん(仮名)のフェイスブックページにある写真を見てみると、どういうことだか当時よりも痩せていて、なんとも心配になる。現在は個人でアロマセラピストをしながら、アルバイトをかけ持ちしているとのことである。さらに読み進めてみると、そこにはとてもスピりがちな文言が散りばめられていて、私はアッとなる。愛読書の紹介がある。「平凡な毎日がみるみる輝きだす本」「夢をかなえる365日の言葉」「こころの霧が晴れる言葉」など。自己啓発本によって岸野さん(仮名)の毎日が明るくなるのはとても良いことだとは思うが、私はますます、関わりたくないと感じた。決してこれは岸野さん(仮名)を否定することではなくて、単に私と彼女は肌が合わないというだけのことである。肌が合わないもの同士が無理やり合わせることもないだろう。懐かしんでなのかなんなのか、私にはよく分からないけれども、とにかく、岸野さん(仮名)には悪いが友達申請はなかったことにしておいた。


しかしながら、人間いろいろとあるものだなと思う。友達でもなんでもなかった私に、15年も前の忘れかけていた思い出を掘り返して、興味を持ってくれと言えるくらいの人間に、彼女はなっているのである。当時の彼女を知るものにとっては考えられないことだ。自己啓発本を読んで毎日がキラキラしているんだろうとは思うけれども、私は全くキラキラなどしていないのだし、日常に対するテンション感が違うのだなと感じる。彼女は身長も高いし、顔立ちもきれいめなのだから、ややもすれば我々世代の「強め」の女にありがちな、つばのバカでかい奇怪なデザインの帽子をかぶり、ノースリーブの服を着て、クラッチバッグを右手に持っていてもおかしくはないのである。見るからにアホそうな女に成り下がっているよりも、精神世界へ傾倒して毎日に感謝しているほうが、同じキラキラ系でも良いのではないだろうかと思った。なんにでも前向きになれと言う人間には着いて行かれないが(お前のテンションに他人を巻き込むなと思う)、岸野さん(仮名)のように自己啓発という手段は別として、当時から考えられないほどそれなりの社会性を獲得していることに、15年という歳月は単純に時間の経過であるという以上のものを彼女に与えていたのだなと思った。私はとても、親戚のおっさんのような気持ちになる。


生きる意味、という言葉がある。食えない言葉である。ある人は大事そうにこれを持ち出して持論を展開する。自己実現という言葉が紐ついてくるのが特徴だ。本来的に、生命活動は自らが生きることと子孫を遺すことが目的である。つまり、生きる意味とは寝て食って子作りをすることである。しかし人間にはこれ以上の意味を持たせたがる人がいる。というより、現代の人間は、「これ以上のものを持たざるを得ない」状況にある。とにかく、犬の小便のように、至るところに「ここにいます」と旗を立てたがる。今書いているこのブログも、そういう位置づけにある。人はひとりで生きていくのは困難な生き物だから、みな他人に興味を持ってもらいたいその一心で活動をする。興味を持ってもらえたかどうかは、これに反応した人間の量もしくはその質によって判断される。つまり人間は、自分に興味を持ってくれた他者によって自分を認識する。現代はその行為自体が、とても容易く達成できる。生きる意味を見い出すには十分なほど様々なツールが揃っている。岸野さん(仮名)がどういう思いで700点以上の写真と文章でもって少なくない他者に対して自らの日常を訴えているのかは分からないけれども、人にものを言えないくらい控えめすぎたあの頃より、とても人間的な人間になったと思う。ただあまりに意味ばかり追うていては、他者は辟易するばかりだし、剥き出しの「生」はとてもアクが強い。『人生《ライフ》、々々《ライフ》というが、人生《ライフ》た一体何だ。一個の想念《ノーション》じゃないか。』(二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」1908年)というところまで言えれば、みんな良いのだけれど。



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by ahoi1999 | 2015-12-24 04:50 | 生活 | Comments(0)


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