サイドビジネス

ぼくはテーマパークが大嫌いだ。小4の時に初めて行ったディズニーランド。これがすべての元凶である。まず買ってもらったばかりのカッコイイ腕時計を失くした。小学生のぼくにとって時間感覚がいかばかりの価値を持っていたのかは不明だが、何せ当時は腕時計に執心していた。誰彼かまわずせがんだ。恥も外聞もない。欲しかったのです。「ボンもうすぐ誕生日やろ?わし買うたるで」。母の勤め先の土建屋の社長が見かねて買ってくれた。立派な施しである。恥をしのんで買ってもらったのだ。にもかかわらず、失くしてしまった。10歳男児がテーマパークを嫌いになるにはこれだけで十分である。どうしてもあの腕に巻く感触を忘れられないぼくは、その後300円の高級ガチャガチャでたまたま当てた粗末な腕時計をしていた。1ヶ月もしないうちに壊れた中国製のその腕時計にはミニーちゃんもどきがあしらわれていたのだが、今考えればとんでもない皮肉である。

もうひとつ理由がある。ディズニーランドはあまりに人が多く、昼飯をとるにも一苦労。1時間くらい待ってようやく入ったしょうもない店で、ぼくはなぜかうどんをオーダーした。生まれも育ちも近畿であるぼくには、そのうどんの耐え難い濃さと辛さが傷心をえぐったように感じられた。想像してみて欲しい。朝から時計を失くして、黒いうどんに腹を撃たれる小4男児。こんなのは、あんまりじゃないか。夢を叶えた人の分だけ、夢を諦めた人がいる。楽しんだ人の分だけ、哀しんだ人がいる。ディズニーランドのアトラクションがどんなものだったか、ぼくには全く分からない。大切なものを失くして、変な物を食わされた記憶しかない。テーマパークはとても悲しい。

先日、髪を切りに行った。町家を改造した大変趣ある店構えが気に入って通っている。たいてい、クロちゃんと呼ばれている30歳のコロコロした女性がぼくの髪を切ってくれている。漫画太郎が描くババアの若かりし頃を思わせるような顔をしていて、好感度が高い。最近の彼女の悩みは、飼い犬に遊び相手としか思われていないことだそうだ。ドライヤーの音がするとワンワン鳴くらしい。クロちゃんが髪をセットする=お散歩だと犬は考えているようだ。自己中心的な犬だという感想しか浮かばなかったが、「アッハッハ、そうですか~!!」などと返答しておいた。どうでもいい話である。ぼくが問題だと思うのは、そこの店長だ。この前行った時は、このアラフォー女店長が担当してくれた。枯れ節のような顔をした店長がシャンプーしながら、「シャンプー選びも大事やけど、男の人はカラダの中からキレイにせんと、ハゲる」と言う。それはあるかもしれないと思った。「やっぱりサプリ飲んだりせんと」と。これもまあ、あるかもしれない。そして突然、「いま年収どんぐらいあんの?けっこう貰ってるやろ~エエトコ勤めてて」と話が変わった。なかなか直球で聞いてくる人も珍しい。いや、怪しい。とても怪しいが、心が太くやさしい子になりますようにと寺の坊主に名付けられたぼくの名において、この胡散臭い店長と嘘偽りない会話をしようと心に決めた。

ぼくはワーキングプアです、と正直に言った。勤め先はカンバンだけ大きくて実際の年収は少ないし、営業やってた頃なんて5億円以上の年間売上があっても年収はその1%以下だったと。薄利多売業界で致し方ないという話をした。「そこまで気付けてるんや~~ん!」と雄叫びを上げる店長。気付けるも何も、会社組織というものはそういうものである。「大企業でもいつ潰れるか分からへんやん?サラリーマンやってても生涯賃金2億円もないやん?」。その通りだ。「私の知り合いはね、年収1億以上ある人が5人位いるの。サイドビジネスっていうか、ひとつ高いステージに行けた人。あなたも才能ありそう!」。直感した。今ぼくは、ネットワークビジネスの勧誘をされている。6年ぶり3度目の体験である。全身に沸き立ち上がるゾクゾク感がたまらない。 アムウェイなんだろうか。ニュースキンなんだろうか。 そんなことを思いながら、「才能は無いです」と返答した。「でもね、例えばさ、年収いくらぐらい欲しい?」。アプローチを変えてきた枯れ節に、できるだけ普通な会話をして普通に押さえ込んでやろうと思った。

「850万あればいいです」と答えた。「850万あれば子供2人いても大丈夫だし、家も建ちます。身の丈に合わないお金を持ったところで、ぼくは使い道が分かりません。これぐらいでいいんです」。そうかぁ~残念やなぁ~でも考え方ひとつで成功掴めるんやで~などとしきりに枯れ節は言っていたが、ぼくは自画自賛に忙しくてあまり聞いていなかった。我ながらうまいことを言うものだ。店を出る前、枯れ節はこれからセミナーに行くと言っていたが、ネットワークビジネス・スキルをアップして帰ってくるのだろうか。説伏してくる枯れ節とそれを軽くいなすぼく。考えただけで絶頂に達した。ぼくは、これからもこの店に通い続けようと思った。

帰り道、コンビニに寄ったら乳がバーンなった服を着たムッチムチのネエちゃんがいた。ビールとカットパインを買いに来ていた外人がそのネエちゃんを目で追いながら、「ヒュ~~~」と口笛を吹いた。夢を叶えた人の分だけ、夢を諦めた人がいる。楽しんだ人の分だけ、哀しんだ人がいる。ぼくはこの日、どっちの人間になれたのだろうか。




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by ahoi1999 | 2014-06-24 00:05 | 生活 | Comments(0)


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